鞄に入れたい次の本

読書が好きな大学生の備忘録。週に二、三回更新できれば御の字。今の自分に追いつくまでは読んだ時系列めちゃくちゃです。

書評:蜜蜂と遠雷

蜜蜂と遠雷」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|恩田陸 | 小説 ... 

著者:恩田陸

出版社:幻冬舎

 

 今日は僕が恩田陸さんを知ることになった小説を紹介したいと思います。それまで自分が没頭してきた作家は、村上春樹さん、東野圭吾さん、海堂尊さんとった感じでミステリーよりの作品の作家だったのですが(村上春樹さんは万人が読むので勝手に例外だと思ってます。)「直木賞本屋大賞をW受賞」といういかつい肩書きをブッ下げ、「音楽」がテーマだった事もあり手に取った瞬間から「早く読みたい!」という思いでいっぱいでした。去年の映画化された際も、僕が好きな松岡茉侑さんが主演というのに惹かれて見にいきました。まぁ感想としては本のほうがいいなと思ってしまったのですが...笑

あらすじ

 舞台となるのは、3年ごとに開催されている芳ヶ江国際ピアノコンクール。前回の優勝者が世界的な成功を収めることになったという経緯もあり、今回のコンクールでは世界的な注目を集めていました。出場者も将来を渇望されるピアニストが揃っていましたが、その中でも注目を集めていたのは、かつて天才少女と言われながらも突然姿を消した栄伝亜夜の再来でした。その他には、優勝候補の一人であるマサル・カルロス・レヴィ・アナトール、大会最年長にして唯一の社会人ピアニストの高島明石、そして彗星の如く現れた謎の少年(風間塵)がいました。

 ストーリーは栄伝亜夜をメインに、登場人物の視点が入れ替わりつつ語られていきます。なぜ彼女は突然姿を消してしまったのか、彼女は華麗な復活を遂げることができたのか。そして風間塵はどういった意図で大会に出場することになったのか、人間模様だけでなく好奇心をくすぐられるような話も詰め込まれています。

 それぞれが大会に対して並々ならぬ決意を抱え挑む中で明かされていく各々の過去、ピアノに対する思いは必読です。音楽という一見華やかな世界の裏にある実力主義の無情な一面、限られた栄光を掴む為にひたむきな努力を重ねる人々、そして人々を繋ぐ音楽の美しさが綴られています。

感想

 結論から述べると、滅茶苦茶面白かったです。自分が読んできた本の中で間違いなくトップクラスの面白さでした。冒頭で述べたように二つの大きな作品を受賞してるから当たり前ではあるのですが、それでも自分の予想を遥かに越えてくる読み応えです。語彙力のない僕が語るとあまりに安っぽいので是非作品を読んで欲しいのですが、壮大なエンターテイメント作品です。登場人物の中の誰かしらのファンになる事も間違い無いです。

 特筆すべき点の中の一つとしては、登場人物全員が魅力的でした。主人公として書かれる栄伝亜夜は勿論、彼女とは旧知の仲で圧倒的な実力と存在感を放つマサル、これが最後と心に決めて社会人だからこそ奏でられる音があると信じて大会に挑んだ明石、そして亡き師に送り込まれるように現れて台風の目となった塵。誰をとっても本一冊分のストーリーができあがり、またそれが互いに重なり合わないような魅力を持っていました。僕自身は明石が一番好きだったので、彼が敗退したときは非常に読むのが辛かったのですが、「春と修羅」のカデンツァで賞を受賞したときは安堵感と嬉しさから微笑みを浮かべながら読んでいました。

 そして何より凄いのは、恩田さんの音楽を文章で伝える力が恐ろしいなと思いました。「革命前夜」の書評でも述べたように(読んだ順はこっちが先ですが)僕は別にピアノに詳しいわけではないので、タイトルを見ても”うーん”という感じだったのですが、文章を読んでいるとその音楽をあたかも知っているような気分になり、世界観に引き込まれました。音楽を、風景や感情表現を比喩として用いて、読者の想像力を掻き立てるように書き綴っていたことが頭の中に曲を作り出したのだろうと思っています。

 大会が進むにつれて増していく緊張感と、明らかになってくるそれぞれの心情もまるで自分が当人たちであるかのように明瞭に感じることができました。実際の音楽家の抱く心境は自分もわかりかねないのですが、ひょっとして恩田さんは音楽家でこんな経験を自らしてきたのではないかと思うほどでした。

 

 余談ですが、恩田陸さんはこういう作品を書くときの表現力がもの凄いです。芸術をテーマにして、その中でも超一流の者が感じているような世界観や緊張感を読者がまるで追体験しているような気分にさせてくれます。これは「チョコレートコスモス」でもそうだったのですが、まるで自分自身が壇上に立っているような錯覚を起こしながら、手に汗かいて読み進めていました。

 映画に関しては芸術的な部分に焦点が当てられすぎて、それぞれのキャラの魅力や背景のストーリーの言及が薄かったので少し残念だったのですが、文庫でこれほどの厚みのある内容を2時間の映画にすると仕方がないのかもしれませんね。とりあえず亜夜が綺麗だったのと、マサルが異様にかっこよかったので目の保養になり、作中の楽曲が実際に耳を通して聞けたのでよかったです。

 

表紙画像https://ara-suji.com/wp-content/uploads/2019/03/61o52m84ypL.jpgから引用