鞄に入れたい次の本

読書が好きな大学生の備忘録。週に二、三回更新できれば御の字。今の自分に追いつくまでは読んだ時系列めちゃくちゃです。

書評:インパール

 

著者:高木俊朗

出版社:文春文庫

 

 長い間本棚に眠っていた作品です。買った当初はあまりにも漢字と知らない地名が多すぎて、あまり読み進める気が起こらなかったので、いつか読まないとなと思いつつ逃げてました(笑)他の作者さんの作品で太平洋戦争をテーマにした作品がちらほらでてきて、思い出されたので久しぶりに手に取って読むことになりました。

 

概要

 太平洋戦争・最も無謀であるとされ、最も悲惨な結果に終わった「インパール作戦」。作戦に参加した師団や、当時の上層部の人物が実名で綴られています。史実を元に構成された話の上に、著者の調査により色付けされ描かれたそれぞれの人物像が克明に語られています。

 己の名声と日本国の戦力の課題評価の為、どうしても作戦実行に固執した”小東條”、牟田口司令官。その元で作戦に対し異を立てながらも実行せざるを得なかった柳田師団らの実行部隊。悲劇の作戦は、多くの死をいたずらに巻き込みながら進行していきます。

 作戦失敗後、上層部は各々の失態を隠蔽しようと記録をねじ曲げ始めます。本作品で暴かれる実情と将達の人間性は必読です。

 

感想

 内容はとてもわかりやすく凄惨さと無情さにはとても現実味がある作品でした。勿論太平洋戦争の話で結果は周知の事実ですが、裏側の話は初めて読みました。

  己の名声の為に無謀な作戦を推し進めたとも取れる上層部には非常に強い憤りを覚えながら読み進めていました。あまりにも人の命が軽く扱われ、一人一人が数としてしか扱われない当時の現状は悲惨の一言ではとても語り尽くせません。上層部にも「日本国の為」という想いがあった事はわかりますが、おそらく「日本国の為」以上に「自分の武功の為」を優先してしまっていたのでしょう。もし最終目標の「日本国の為」を意識できていたら、無益な戦闘はここまで起こらず多くの命が助かったことでしょう。そして、あるいは戦争行為の愚かさにきずいた人々がより強く反戦を訴えて状況が変わっていたかと思うと、歯痒さも感じられました。

 よく聞く話ですが、兵隊は勇猛であることが望ましく、将は慎重であることが望ましいと言います。(言い方は違うかもしれませんが)そういった意味で言うと、「インパール作戦」携わった上層部は気概や神の力を頼り、自分たちの実力を過信していました。そこから慢心が生まれ、連合国の航空部隊を過小評価してしまったり、数少ない現実的な忠言者の柳田師団長に耳をかさず破滅の道へと走っていきました。自業自得と言うにはあまりにも多くの犠牲を払い過ぎです。過去の戦争や歴史から、彼ら自身は何を学んできたのか甚だ疑問で仕方がなかったです。

 この作品から学ぶべき事は実に多いのではないでしょうか。当たり前ですが、戦争という悲劇を繰り返してはいけない事。怨恨孕んだ争いからは、新たな怨恨が生まれるだけというのは人生の歴史を振り返っても自明の事です。また他の暴力行為、昨今でいうアメリカのイラク侵攻であり、ベトナム戦争は何も正の生産性はありませんでした。様々な技術や知見を得た我々人類は、それを暴力行為に注ぎ込むのではなくいかに平和的な解決をできるかに注ぎ込むべきなのです。

 そして、現代を生きる我々は過去の多大なる犠牲の元に生活を享受している事も一つです。ある意味我々の生活は戦時中の多大なる犠牲なくして成立し得ません。当時の戦争の反省が残っているからこそ、我々は平和的に物事を解決できるように動いているといっても過言ではないのではないでしょうか。他にも、私利に固執する事の愚かさや思考放棄という行為の恐ろしさも常に忘れてはいけないこととして、心に知らしめ続けるべきだと感じさせてくれました。

 

(読了日2020・5・12)

 

表紙画像https://images-na.ssl-images-amazon.com/images/I/61OoB9i022L.jpgから引用