鞄に入れたい次の本

読書が好きな大学生の備忘録。週に二、三回更新できれば御の字。今の自分に追いつくまでは読んだ時系列めちゃくちゃです。

書評:禁じられた楽園

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著者:恩田陸

出版社:徳間文庫

 

 恩田陸さんの作品です。新装版が出たという事でせっかくなので買ってみようと思って手に取りました。コロナ禍という事もあり1日を贅沢に使って一気に読み切ってしまいました。あと表紙の高杉真宙がかっこいい。

 

あらすじ

 建築学部に通う主人公(捷:サトシ)が、稀代の美術家/演出家の烏山響一と出会うところから物語は始まります。圧倒的なカリスマ性と能力を持ち海外でも活躍している響一からすると、捷は比べ物にならないはずの凡人のはずなのですが響一は捷に強く興味を示します。そんなある日、彼は響一の演出した作品を見ると同時に、自分の中に眠っていた過去の記憶を思い出します。徐々に増す違和感に困惑する捷ですが、突然響一から和歌山にある彼の実家への招待状が届きます。猜疑心を抱きつつも和歌山に向かった彼は、もう一人の招待客である律子と出会うのですが、彼女もまた響一に見出された人物の一人でした。

 時を同じくして、探偵業のアルバイトに勤しむ和繁の元に大学時代の友人であった淳の婚約者(夏海)が訪れてきます。夏海から淳が突然姿を消したという知らせを聞いた和繁は、淳の探索に協力する事を決意します。調査を進める内に淳が最後に手掛けていた仕事は、烏山家に関係した仕事で和歌山に向かったと知り、和繁と夏海も和歌山へと向かっていきます。

 

感想

 ひたすらに不気味な作品でした。冒頭からいきなり、こいつは一体なんなんだろうという響一の存在、常に付きまっとてくる違和感。解消する為に読み進めていくとさらに不気味な違和感にとりこまれていき、気がつくと本を置けなくなっているという感じでした。回想や真理描写がとても多く、理解する為に想像力を働かせるとますます怖くなったのも印象的です。

 圧倒的なカリスマ性を輪郭で表現するシーンであったり、所々挟まれる淳の箱庭実験のシーンに関しては、表現がとても魅力でした。前者には「確かにそうだな」と思わせる納得感があり、後者では短文で語られる情景が不気味さを引き立てていました。インスタレーションもチームラボを彷彿とさせて(方向性は全く異なりますが)面白かったですね。

 

 ただ、正直に感想を述べると”う〜ん”という感じの作品でした。もともと当たり外れのある作家であるとは言われていますが、今回は自分にはあまりハマらなかったかなという感じです。インスタレーションの異様さと展開に伴い次第に増していく緊迫感に関してはとてもよく表現されていたのですが、如何せん腑に落ちない事が多すぎたという感じがします。そもそも主人公の子供との関係性、夏海の過去の淳(響一)との出来事、烏山家の謎、各インスタレーションの意義が放置されたままな気がしてしまってという感じです。知りたかった部分がほぼ全てそのままで終わってしまいました。過去を乗り越える系の話を期待してしまっていた自分が悪い事も否めないのですが、主人公達に明確な変化が欲しかったですね。ラストもそれまでの盛り上がりが面白かった分、あれ?これで終わり?と思ってしまいました。

 良くも悪くもストーリーよりも雰囲気が圧倒的に勝っている作品なので、読者との相性が大事になってくるなと思った作品でした。

 

 ちなみに、恩田さんの作品の「蜜蜂と遠雷」や「チョコレートコスモス」といった作品は自分はどハマりしています。(またブログでも取り上げると思いますが)彼女が人生を掛けて物事に取り組む人々の物語を書く時、その時の緊張感や心理描写は他の作家では追随できない魅力が感じられます。その反面ダークな物語(ミステリーも含む)ではファンタジー要素が強くなっており、自分にもっと想像力があれば深く読み込めるかも知れないので、今後の課題といったところでしょうか。

 

(読了日2020・4・27)

 

表紙画像https://images-na.ssl-images-amazon.com/images/I/61f-paF91FL.jpgから引用